
ウサギのモフ子は、いつものように元気に森の中を駆け回っています。
「モフ子、そんなに走ったら危ないよ」

「ほらほら、言わないこっちゃない」
モフコが転びそうになるのを、木の上からおばあさんフクロウが見ていました。

「モフ子はいつも元気だね」
「おばあさんこそ、いつも元気ですね」
そのモフ子の言葉が、おばあさんフクロウにはあまり聞こえなかったみたいで、ニコニコ笑っているだけでした。
どうやら、おばあさんフクロウは歳のせいか、耳が遠くなっているみたいです。

おばあさんフクロウは、羽を大きく広げることはあっても、今では飛ぶことはありません。
「どうしておばあさんは、前みたいに高く飛ばないの?」
モフ子が聞きました。
おばあさんフクロウは少し目を細めて笑いました。
「体は少しずつ衰えていくものなんだよ。それを老いるということなんだ」

モフ子は不思議そうに首を傾げました。
「老いるって、体が弱っていって、いつか死ぬことなの?」
おばあさんフクロウは目を細めて、モフ子の隣に降り立ちました。
「老いるとは、誰しも起こることなんだ。だから心配はいらないよ」

「若いときはね、走るのに夢中で花の香りを感じなかったりする。でも歳を重ねると、風や木々の音が心に深く響くんだ」
おばあさんフクロウの声は静かで、はっきりした声で言いました。
「年をとると、体が弱っていったり病気をすることは仕方ないことなんだ。でもその代わりに色々なことがわかってくる」
モフ子は、大きく頷きました。

ある日、おばあさんフクロウは森のみんなを集めました。
「今日は、昔の森の話をしよう」
森の仲間たちは目を輝かせて耳をかたむけました。
おばあさんフクロウの声はゆっくりだけれど、森の歴史を鮮やかに映し出しました。

「森ではね、大きな木が倒れても、その木は土にかえり、新しい芽を育てるんだよ」
おばあさんフクロウの言葉に、動物たちは顔を見合わせました。

「川の水も、空にのぼって雲になり、雨となってまた森に帰ってくる。命もそれと同じで、ぐるぐるめぐっていくんだ」
モフ子は目をまんまるにしました。
「じゃあ、命は消えるんじゃなくて、形を変えて生まれてくるの?」
おばあさんはにっこりと笑いました。

「別れは終わりじゃないっていうこと?」
モフコの言葉に、おばあさんフクロウはやさしく答えました。
「そうだよ。すべては、繰り返して重なり合ってつながっているんだ」

「つまり、老いることも同じさ。老いることがあるから、次の若い者たちが育っていく」
モフ子はゆっくりと頷きました。
「老いることは恥ずべきことじゃないんだよ。みんなにありがとうを言えるチャンスだからね」
フクロウのおばあさんの言葉は、モフ子の胸にあたたかくしみこみました。
「だから、老いることは優しくなることなんだ。森の仲間や自然の恵みに気づいて、感謝できることに気がつくことだからね」

モフ子は思いました。
森の木々が酸素をくれ、小川が水を運び、仲間が手を差しのべてくれる。
その一つひとつに「ありがとう」と心をむけることで、森はやさしさに包まれます。
森に生かされ、仲間に支えられ、今日も息をしていることはありがたいことなのです。
老いることは、その「ありがたさ」をより深く感じ、今を強く生きていくことにつながっていることに気がつくことです。

次の日からモフ子は、おばあさんと過ごす時間をより大切にしました。
そして、いつものように森を走り回り、花の香りをかぎ仲間と笑い合う。
ひとつひとつの瞬間が宝物に変わっていくことを感じながら元気に駆け回りました。