「ゆっくりでいいよ」

ある朝、森の小道で、小さなカメがひっくり返って足をバタバタさせていました。

重たい甲羅のせいでなかなか起き上がれません。

そこにモフ子が通りかかりました。


モフ子はその場にしゃがみこむと、そっとカメを元に戻してあげました。

「ありがとう……でも、ぼく、もう無理かもしれない」

残念がるように、カメはしょんぼりとつぶやきました。


「どこかに行くつもりだったの?」

モフ子は静かに聞きました。

「あの丘の上に行きたかったんだ。おじいちゃんがね、言ってたんだ。あの丘の上から見る夕日が森で一番きれいだって」

モフ子たちは、丘を見上げました。

「でも、一緒に行こうって約束してたのに、おじいちゃんは行けなくなっちゃったから……だから、ぼくだけでも見に行こうと思って」


「だったら、私と一緒に行こうか」

モフ子はにっこり笑って言いました。

「でもぼく遅いから、迷惑かけてしまうよ」

「ゆっくりでいいよ。私も急いでないから」


二人は並んで歩き始めました。

坂道は険しく、何度かカメは転びました。

そのたびにモフ子は、黙って手を差し伸べます。

「ありがとう」

「どういたしまして」

それだけを繰り返しながら、二人は歩き続けました。


やがて夕暮れ近く、二人はとうとう丘の上に着きました。

森全体がオレンジ色に染まって、どこまでも広がっています。

「わあ……」 カメの目が輝いています。

「着いたね」とモフ子が言うと、

「うん……諦めなくてよかった。この景色見たことで、おじいちゃんもきっと喜ぶから」


「おじいちゃん、見てる?」

カメは、夕陽に向かって大きな声で叫びました。

「おじいちゃんどうして来られなくなったの?」

モフ子の言葉に、カメは言いました。

「おじいちゃん、三日前に病気で死んじゃったんだ」

風がそっとモフ子とカメの間を吹き抜けて行きました。

それはまるで、おじいちゃんの優しい返事のように感じられたのです。


あとがき

むかし、ウサギとカメは競争をしました。 

でも、今回はモフ子とカメは競争しようとはしませんでした。 

ただ、一緒に歩いて、この景色を見たかったからです。

助け合い協力し合って成し遂げた景色は、とても清々しく美しかったことでしょう。