
ウサギのモフ子は、いつものように森の小径を元気に駆け回っています。
いつも、ニコニコしながら楽しそうに、森の動物たちや草花まで声をかけます。

モフ子が、森の小径を楽しそうに走っていると、しょんぼりした顔でリスが近寄ってきました。
「モフ子ちゃん、僕の話を聞いてくれる?」
深刻な悩みがあるように、リスは話しかけてきました。
「今朝、友達に声をかけたのに、返事をしてくれなかったんだ。僕は友達から嫌われているのかな」

「そんなことないんじない」
モフ子が言っても、リスは心がざわついているのか落ち着きを隠せません。
「このごろ、だれも遊びに誘ってくれないし、きっと仲間はずれにされちゃっているんだ」
モフ子が気のせいじゃないのと言っても、リスの心には届かないのです。

自分が思い込んでしまうと、そのことをくつがえすことは容易ではないのです。
モフ子は、近くの池にリスを連れて行くことにしました。
池の水面は、風が吹いているせいか、さざ波が立っています。

モフ子は池の水面を指して、ゆっくりと言いました。
「池の水面に風が吹くと水が波立つでしょ。これと同じで、心がざわめいていると、ほんとうの姿が映らなくなるわ」
モフ子は、ゆっくりと説明をします。
「何か不安や心配事があったときは、いちど心を落ち着かせることが大事なの」

モフ子はリスを見つめて、やさしくほほえみました。
「心配事や不安は、池の波と同じで、ずっと続くように思えても、気にせずに受け流していれば、やがて静かになるわ」

しばらくすると風が止み、いつものように池の水面は鏡のようになり、森の木々を映し出しました。
「このように、風が止むと池は、もとのおだやかな水面に戻るの。これと同じで心配事があると心はざわつくけれど、放っておくともとに戻ってくるわ」
モフ子は、悩みや心配事は気にしなければいつか落ち着くけど、いつも心から離れないと、風が吹く水面のように、心はざわめき続けるということを説明しました。

「でも僕、友達から無視されているのは本当なんだ」
モフ子はにっこり笑うと、
「それであっても、気にしないこと。本当に意地悪な友達だったら、こちらから相手にしなければいいのよ」

「心配や不安を握りしめていると苦しいでしょ。そのような時は、その気持ちを手放すことが必要なの」
リスはそれでも納得しません。
「もし心配事が起こったら、気にしない気にしないと、心の中で唱えてみると心は落ち着くわ」

次の日、モフ子のところにリスが訪ねてきました。
「昨日ね、友だちにもう一度、声をかけてみたんだ。そしたら、友達が言うには、最近ちょっとイライラしてて、だれとも話したくなかったんだって」
リスは少しほっとした顔になりました。
「ぼく、嫌われたんじゃなかったんだね」
そう言うと、胸のざわざわがすうっと消えていったということで、池の水面のように、心が澄んでいくのを感じたということです。

「嫌なことがあっても、それは風みたいなものなの。心がざわざわしても、その風を受け流せば心は落ち着くわ」
モフ子は続けて説明します。
「それと、きっとこうなんだと自分で思い込まないことが大事なことよ」

その夜、モフ子とリスは池のほとりに並んで座っていました。
水面には、まんまるな月がやさしく輝いています。
モフ子が静かに言いました。
「ざわざわの波は、だれの心にもやってくるものよ。でも、とらわれずに受け流せば、心はもともと澄んでいて、すべてをきれいに映してくれるの」

リスは池に映る月を見つめながらつぶやきました。
「不安や心配事は池に吹く風と同じで、まずは心を落ち着かせる必要があるんだね」
そのときリスは、自分で自分を苦しめていたことに気づいたのです。
これからは、心に風が吹いても、どこ吹く風と受け流せば、心配事はいつの間にか消えていくということを知ったのです。
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