毎日の暮らしの中で、私たちは人とすれ違ったり、出会ったりをくり返しています。
その一瞬に、もしあなたが「笑顔」であいさつできたなら、相手の心にあたたかい灯がともるかもしれません。
笑顔は特別なものではなく、誰でも持っていて、分けあえる贈り物です。
このお話は、ウサギのモフ子が、笑顔であいさつすることで森のみんなを幸せにしていく姿を描いたものです。

モフ子は、いつものように、森の中を散歩します。
モフ子は、いつもいつも笑顔を絶やさず、会う人みんなに笑顔で挨拶します。

モフ子が いつも元気で笑顔なのは、昔、おじいちゃんが 言ってくれた言葉が、ずっと心に残っているからです。
「笑顔はね、何も持っていなくても、誰かにあげられる素敵な贈り物なんだよ」
それに、もらった人は、誰もがうれしくなるって、おじいちゃんが教えてくれたからです。

笑顔であいさつすると、森の中はまるで、笑顔の音楽が流れているみたいです。
おじいちゃんは、 モフ子に言いました。
「モフ子や、よくやったね。おまえの笑顔がひとつのタネになって、みんなを仲良く幸せにしているんだよ」

モフ子は空を見上げて、そっとつぶやきました。
「今日も、たくさんの『ありがとう』と、笑顔をわたすことが できたかな」
笑顔であいさつしたり、やさしく返事をすると、みんなが幸せな気分になって、自分の心もなんだかぽかぽかとあたたかくなったのです。

いつものように、モフ子は森のみんなに笑顔であいさつをしました。
しかし、フクロウ さんは、ムスッとしたまま答えてくれません。

森のみんなもちょっと静かになりました。
「なんで あのひと、笑顔をかえさないの?」
小鳥がささやきます。

つぎの日も、そのつぎの日も、モフ子は フクロウにあいさつをしました。
「おはようございます!」と笑顔であいさつしても、 フクロウはいつものようにムスッとしたままです。

他の森の動物たちは、なんていう人なの、こっちがあいさつしているのに無視するなんて。
あんな人、もうほっておきましょうと、口々に知らないからと、みんな だんだんフクロウからはなれていきました。

ある雨の日、傘を持っていなかったモフ子は、家に帰る間、びしょ濡れになってしまいました。
その時に、傘を差し出してくれたのは、いつもむすっとしているフクロウでした。
「おまえの笑顔は、いつもあったかいな」
フクロウは、はじめてちいさくほほえみました。

フクロウは、自分が笑わないわけを話してくれました。
以前、とても大事な友達から馬鹿にされて笑われたことがあって、それから笑うことがこわくなったということです。
笑うことで相手を傷つけるかもしれないと思うようになったのです。

モフ子はフクロウにそっと近づいて、にっこりほほえみました。
「笑顔は相手を馬鹿にするためのものじゃないのよ。きっと、そのともだちも、わるぎはなかったんだと思う」
笑顔は、やさしさをわけあうものなの。
その言葉にフクロウは、すこしだけ口元がやわらかく笑顔になったような気がしました。

「ありがとう」「だいじょうぶ?」「よかったね」
そんなやさしい言葉といっしょに、笑顔をわけてあげましょう。
きっと、まわりの人も幸せな気持ちになるはずです。
もし、みんながいつも不平不満や愚痴ばかり言っていたら、世界はつまらなく、悲しい場所になってしまいます。

あなたもだれかに、笑顔をわけてみませんか。
ありがとうという言葉と一緒に笑顔を分けてあげて下さい。
きっとあなたも、みんなも幸せな気分になれるはずです。
あとがき
モフ子の笑顔は、ただ楽しいからではなく、相手を思うやさしい心から生まれました。
そして、どんなに笑えない理由を持つ人にも、寄り添いながら少しずつ心を開いてもらう力がありました。
笑顔は、相手を軽んじるものではなく、分かち合うためのものです。
それを受け取ったとき、人は安心し、幸せな気持ちになります。
今日、あなたも誰かに笑顔を分けてみませんか。
きっと、その一瞬が、相手の心をあたたかくし、あなた自身も幸せにしてくれるはずです。