森には、いろいろな動物がくらしています。
力もちのクマ、木登りが上手なサル…。
でも、小さなネズミは、自分にできることがないと、悲しい気持ちになっていました。
けれど、ほんとうにそうなのでしょうか。
このお話は、「小さいからこそできることがある」ことに気づいたネズミの物語です。

森のすみで、小さなネズミがため息をついています。
「僕はサルのように木に登れないし、クマのように大きなものを動かすこともできない。ぼくは、なにもできないんだ」
ネズミは、自分というものが情けなく涙がにじんできました。

そこに、モフ子がやってきて、やさしく声をかけます。
「どうして、そんな悲しい顔をしているの?」
ネズミは、自分は何もできない頼りない動物だと言います。

モフ子は、ネズミを慰めるように言います。
「そんなことないわ。ネズミさんは動きが機敏で、どんな時でも早く動くことができるわ」
「だからといって、僕はみんなのように役に立つようなことができないんだ」

木の上で、モフ子とネズミの会話を聞いていたフクロウが言いました。
「クマは力があっても、すばしっこく動くことはできないし、サルは木登りが得意でも、細い隙間を抜けることはできない。でも、お前さんの小さな体は、どんなすき間にも入ることができるし壁だって登ることもできる」
それを聞いてモフ子も言いました。
「そうよ、ネズミさんは他の動物にない素晴らしさがあるわ」
「小さな力でも、大きな動物にはできないことを成しとげることができれば、それが、特技ではないのかしら」

フクロウとモフ子に励まされたその夜、ネズミはベットに横になりましたが、目を閉じても眠れません。
胸の奥に、自分の小ささが重くのしかかってきます。
「やっぱり、ぼくはみんなのようには大きな力にはなれないんだ…」
そんな思いが、ネズミの心の中で大きくふくらんでいました。

ある日、森に住むリスの家の一階から火の手が上がり、全体に燃え広がろうとしています。
リスのお母さんが、「家の中にまだ子供がいるのです」と叫びます。
クマやサルたちは必死に考えましたが、体が大きくて家に入れません。
みんなが立ちつくすばかりです。

そのとき、小さなネズミが前に出ました。
「ぼくが行く!」
ネズミは、炎が上がっている家の中にすばしっこく飛び込みました。

家の中は煙が充満していて、前が見えません。
それでもネズミは必死に進みました。
狭いすき間をすり抜け、低い床の下を走ります。
大きな動物には通れない道も、ネズミなら進むことができたのです。

ネズミは、家の二階にいた子リスに声をかけます。
「お母さんが外で待っているよ。こっちへおいで!」
ネズミは小さな体で道をひらき、子リスを導きました。

煙の中をくぐり抜けて外に出ると、お母さんリスが子を抱きしめました。
「ありがとう! ネズミさん!」
見守っていたモフ子たち動物が、いっせいに歓声を上げました。

ネズミはにっこり笑いました。
「小さなぼくだけど、小さいからこそできることがあるんだ」
その瞳には、自分を信じる力がやさしく輝いていました。
ネズミは胸の中で、ぽっとあたたかな火がともるような気がしました。

ネズミは、誰かのことを見て羨ましがるのではなく、自分の才能を認めてそれをのばしていくことのほうが、大事なんだということに気がついたのです。
あとがき
このお話でネズミは、自分の小ささを「弱さ」だと思いこんでいました。
でも、火事の中で子リスを救ったとき、はじめて気づいたのです。
小さいからこそ、できることがあることを。
みんなそれぞれにちがう力を持っています。
比べて落ちこむよりも、自分の中にある小さな力を信じてのばしていくことが大切です。
それが、自分らしく生きるということにつながるのではないでしょうか。
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