森に住むクマは、食べて寝てばかりの怠け者です。
リスやモフ子のように働いたり、仲間と助け合うことには興味がありませんでした。
「食べて寝てれば、それで幸せさ」
けれどある日、満たされない自分に気づき。クマの気持ちは少しずつ変わっていきます。

森の広場で、クマは木の下で寝ていました。
「お腹もいっぱいだし、 何もしないって、最高だなぁ」
クマは、おなかをたぷたぷさせながら大きなあくびをしました。

その近くでは、リスがせっせとどんぐりを拾っていました。
「これで今夜は安心さ」と、どんぐりをたくさん集めて満足そうです。

そのようなクマとリスのところへ元気いっぱいのモフ子がやってきました。
「みんな、なにしてるの?」
モフ子が、声をかけます。

クマは、眠い目をこすりながら、
「お腹がいっぱいだし、何もしたくないんだ。食べて寝てれば生きていけるなんて最高さ」
リスは、ほっぺをどんぐりでふくらませながら、
「ぼくは自分のえさを集めて、冬のためにたくわえているのさ」

森の広場に、小さな鳥のヒナが泣きながら飛んできました。
「おなかがすいたよ…」
クマは「うるさいなぁ」と、眠りを遮られたことに不満顔です。

モフ子は、自分が持っていた木の実を鳥のヒナに分け与えてあげました。
「よかったら、僕のも食べな」
それを見ていたリスも、自分のために集めていた木の実を差し出すのです。

鳥のヒナは、木の実を食べると元気になりました。
鳥のヒナが笑顔になったのを見て、
「だれかを助けるって、こんなに気持ちいいものなんだね」
リスはモフ子に向かって言いました。

「僕にも木の実を分けてくれないかな」
クマは大きなあくびをして、まだ木の下で寝ころんでいます。
するとモフ子が言いました。
「そんな怠けた生活ばかりしていると、誰もクマさんのこと相手にしなくなるわよ」
クマは一瞬目を開けましたが、すぐに答えました。
「ぼくは今が楽で、何もしないことでそれでいいんだ」

モフ子は首をかしげました。
「ほんとうに寝ているだけで幸せなの?」
クマはまたあくびをしながら言いました。
「もちろんさ。人生なんて、食べて寝てるだけで十分さ」
その言葉に、モフ子はがっかりしてしまいました。
「でもね、何もしないで過ごしていると、年を取ったとき誰にも相手にされなくなるわよ。生きるって、誰かのために働くことなの」

そばで聞いていたリスもうなずきました。
「そうだよ。誰かを助けると、こんなに気持ちがいいんだって、僕はさっき知ったんだ」
けれどクマは、のそのそと寝返りをうちながら言いました。
「ぼくは食べて寝て、それで楽して一生が終わることがいいんだ」
その言葉を聞いて、リスはあきれてモフ子に言いました。
「ねえ、モフ子ちゃん、怠け者のクマさんに何を言ってもむだだよ。構わないで行こう」
モフ子とリスは、ため息をつきながらその場を立ち去って行きました。

森の中では、モフ子やリスなど動物の仲間たちが楽しそうに遊んでいます。
リスは、自分が集めた木の実をみんなに分け与えています。
森の動物たちからは、「ありがとう」と感謝され、なんだかみんな楽しそうです。

遠くで、動物たちの楽しそうな声を聞いて、一人ぽっちになったクマは、心にぽっかりと穴が空いたような気がしています。
「ぼくはお腹も満たされ、働かなくても楽しければそれでいいんだ」
自分にいい聞かせるように言ってみたものの、なんか、みんなと一緒にいられないことが、こんなにさびしいんだろうと気がつきました。

ある日、大風で木が倒れて、森の道をふさいでいました。
森の動物たちは、道路がふさがれて困っています。
モフ子が、なんとかしようと動かそうとしたのですが、木はびくともしません。
その様子を、クマは横目で見ていましたが、「どうせ誰かがやるだろ」と、見て見ぬふりをしています。

「くまさん、お願いだから手伝って」
「動けばお腹がすくだけだから」
クマは動こうとしません。
「ここが通れないで、動物のみんなが困っているの」
「仕方ないな」
クマはむっくり起き上がり、大きな腕で丸太をぐいっと押しました。

木は大きな音を立てて転がり、道が通れることになりました。
「わあ!通れる!」
森の動物たちがいっせいに歓声を上げました。

森の動物たちは口々に言いました。
「クマさん、ありがとう!」
クマは大きな体をかがめ、はにかむように頭をかきました。
その胸の中に、ぽかぽかとあたたかい何かが広がっていくのを感じます。
「ありがとうって…こんなにうれしいものなんだな」
クマは思わずつぶやきました。

するとモフ子がにっこり笑って言いました。
「生きるってね、笑顔を見せたり、『ありがとう』と言ったり、ただそばにいることだって、誰かを支えてるの。何もしないで怠けているのではなく、何かとつながりあうのが、生きるってことなのよ」
クマは力強くうなずきました。
「これからは、寝てばかりいないで、誰かのために一生懸命に何かをするよ」
森の中には、動物たちの笑い声が響き渡りました。
あとがき
ある日、森の道に横たわった大木を避けることをしたことで、動物の仲間たちに「ありがとう」と言われて、初めて心の奥からあたたかい喜びを知りました。
生きることは、ただ楽をすることではなく、だれかとつながり合うことで、ときには手をかし、ときには笑顔を分け合うことで、心が通じあったとき、ほんとうの幸せが生まれるということに気がついたのです。
――あなたはクマやモフ子のように、どんな「ありがとう」を求めて生きていますか。
モフ子と森の仲間たちでは、他にもこころ温まるお話がありますので、読んでみて下さい。