
雨があがった森は、やわらかく光っていました。
葉の先から落ちるしずくが、静かな音を立てています。
モフ子は、見たことのない道を歩いていました。

モフ子が歩いたその先にあったのは、ひっそりと広がるお花畑でした。
赤や青の花たちは、競い合うように咲いていますが、それは争って咲いているのではありません。
それぞれが、自分の花の色を大切にしているだけで、それが集まるととても美しく咲いているように見えるのです。
小さな花たちや背の高い花たちが、それぞれの特色を活かして咲き乱れています。
モフ子は思います。
「花はそれぞれが違って咲き誇っているから、きれいなんだ」

そのときです。
ドドン、ドドン…
遠くから、重たいエンジン音が聞こえてきます。
人間が、森に入ってきたのです。
ただ、まっすぐにこちらに向かって進んできます。

次の瞬間――
モフ子の前を、大きな車が通り過ぎました。
急いでいるのか、花が咲いているのに気がつきません。
モフ子は叫びます。
「そこに、花の命があるのに…」
でも、モフ子の声は届きませんでした。
土をはね、花びらが舞い上がり、車が過ぎ去った後は、森はまた静かになりました。

車が通り過ぎた後、
そこにあった花畑は、もう同じ姿ではありません。
そこに残ったのは、踏み倒されたお花畑の光景でした。
倒れた花が、悲しそうに風に揺れています。

モフ子は、倒れた花をそっと起こし、一本ずつ、やさしくいたわるように植え替えることにしました。
森の動物たちも集まって、その様子を何も言わないで見守っています。
元には戻らない花もありましたが、それでもモフ子は手を止めませんでした。
守ることは、あきらめないことだからということをモフ子は知っているからです。
あとがき
花畑は、もともと静かな場所にありました。
小さな花たちが、それぞれの色で咲いていたのです。
けれど――
そこに入り込んだ人は、その美しさに気づかないまま、花があることもその場所に意味があることも、何ひとつ気にせずに走り抜けて行ったのです。
その人たちは、急ぐことや、前に進むことに夢中になっていて、足元にあるものを見ていなかったからです。
人間の手で壊されたものは、簡単に元に戻らないことがあります。
それでも、そっと手を差し伸べれば、小さな花たちはまた咲こうとします。