簡単に独立できるという甘い罠。私が体験したお掃除ビジネスの残酷な現実

定年を迎えたあと、ふとこんなことを考えたことはありませんか。

会社員としての毎日から解放され、退職金も入り、時間にも余裕ができた今、 何か新しいことを始めてみたい

そのような気持ちが芽生えてきて、まだまだ元気に働けるし、これからが、第二の人生の始まりと考えたときに、何もしないのは少しもったいないような気がするということです。

そのようなときに、ふと目に入ったのが、 お掃除のフランチャイズ募集広告でした。

お掃除なら誰でもできるし、少し専門的なことを覚えればきっと商売になると思ったからです。

少ない資本で開業できるという文字と、未経験でも手厚いサポートという文字が、私のやる気を奮い立たせていました。

お掃除ビジネス

思い切って、お掃除ビジネスのフランチャイズに応募してみることにしました。

一人でも自分のペースで取り組むことができるし、健康で動けるうちは生涯現役でいられるのが大きな魅力だったからです。

これからは自分の腕ひとつでやっていくという決意が固まると同時に、久々にワクワク感が込み上げてきました。

新しい挑戦への期待が、今、静かにそして確かに大きくなっていくことを感じていきます。

研修期間

数百万円の開業資金を支払い、2週間の研修がスタートしました。

研修内容は大きく分けて「座学」と「実技」です。

座学では清掃の心構えや税金、帳簿の付け方など基礎を学びます。

その後、加盟金に含まれる道具や教科書を使い、実際の掃除手順や洗剤の使い分けを学ぶ実技へと移ります。

一番の難関はエアコンクリーニングでした。

メーカーごとに異なる分解手順や、精密機械部分の養生作業など、高度な技術が求められます。

それにもかかわらず、講師の実演後の練習時間は、グループ分けの都合上、一人たったの15分という短さです。

メカニックに不慣れな私は、これでは到底覚えられないと不安になり、そこのところを講師に質問をしたのですが、返ってきたのは「あとは実践で覚えてください」と、あしらうように言われのです。

そして、実際に20台もこなせばプロとして心配いりませんというような、いかにも無責任な回答を返してきたことには驚きました。

それに、今思うと教わった清掃の基本知識も、ネットで検索すればすぐに分かるようなレベルのものだったからです。

高額な資金に見合うだけの専門的な指導とは思えない内容であるという、大きな疑問が残る研修となってしまいました。

開業して見えてきた現実

研修の内容に疑問はありつつも、それでも「早く基礎を身につけなければ」と期待に胸を膨らませ一生懸命に研修に取り組みました。

そして、いよいよ迎えた開業の日。

しかし、現実は思っていたほど甘いものではありませんでした。

待てども待てども、お客様からの問い合わせの電話が鳴らないのです。

「本当にこのままで大丈夫だろうか……」

日増しに強くなる不安に耐えきれず、本部に状況を相談してみたところ、返ってきたのは「最初は仕方ないですね。とにかくチラシを多く配りましょう」という、あまりにも他人事のようなアドバイスだったのです。

チラシに感じた違和感

チラシは、本部から購入する形で、印刷代としてお金を払わなければなりません。

そして、そのチラシを見たとき、 ひとつの違和感を覚えたのは、そこに載っていたのは自分の電話番号ではなく、なんとフランチャイズ本部の番号だったのです。

さらに追い打ちをかけたのは、チラシの隅に大きく書かれた「フランチャイズオーナー募集」の文字でした。

つまり私は、自分でお金を払ってチラシを買い、自分の足を使って、本部のための「集客」と「加盟店募集」の宣伝をさせられていたのです。

問い合わせはすべて本部に入る仕組みになっていて、本部のためにお金を払ってタダ働きをさせられているような、何とも言えない虚しさが込み上げてきました。

最初だけ動き出す仕事

とはいえ、開業からしばらくすると、少しずつですが仕事が入り始めました。

季節柄、エアコン清掃の依頼が多く、おそるおそるお客様のお宅へ訪問する日々が続きます。

しかし、あの短い研修だけでは技術も知識も不十分で、不安だらけだったことから、私は、親戚や知人に頼み込み、無料でエアコン掃除をさせてもらいながら、必死に実践で技術を身につけてきました。

どうしても自分一人では対処できない難しい作業は、同じフランチャイズ仲間に応援を頼み、助け合いながらなんとか最初の3ヶ月を乗り切ることができたのです。

ところが、その3ヶ月が過ぎようとした頃、あれほど入ってきていた仕事が、まるで潮が引くように全く来なくなってしまいました。

頼みの綱だった本部からの仕事依頼も、ある日を境にピタッと止まってしまったのです。

フランチャイズビジネスで見えてきた現実

本部からの仕事は途絶えたのですが、仕事があろうとなかろうと、開業した以上は毎月のロイヤリティを支払わなければなりません。

収入がゼロでも固定費だけが容赦なく引かれていく現実に、この頃から仲間内でも、もしかして騙されているのではないかという疑念の声が広がり始めました。

さらに追い打ちをかけたのが、理不尽なマージン制度です。

本部から仕事が来ないため、自分で必死に営業して見つけてきた仕事であっても、そこから本部へのマージンは支払わなければならないからです。

自分で経費を払い自分で仕事を見つけ、それでも利益の一分は本部に支払わなければならないという現実から、そこらあたりに来て、誰のために何のために働いているのだろうという虚無感に襲われてくるようになり、働く意味すらわからなくなってしまったのです。

少しずつ離れていく仲間

「商売はそう簡単ではない」という厳しい現実に直面し、一人、また一人とフランチャイズから離れていく仲間が出始めました。

しかし、辞める決断をした彼らの前には、さらなる大きな壁が立ちはだかってきます。

契約書をよく読み返すと、「退会後、同じ地域で同業をしてはいけない(競業避止義務)」という条項がしっかりと組み込まれていたのです。

違反した場合は法的手続きを取る可能性があるとも記されています。

つまり、せっかく苦労して清掃の技術を覚えて開業しても、独立して自分の力で仕事を続ける道は完全に閉ざされてしまうのです。

本部にとっての本当の目的は、清掃の仕事を広めていくことではなく、オーナーを増やしてそこから加盟金やロイヤリティを得ることだったということです。

だからこそ、私たちが苦しんで辞めていったとしても、本部としては一向に困らないということなのです。

辞めて人が減ったとしても、また「簡単に始められる」という甘い言葉で、新しいフランチャイザーを集めればいいからです。

これは決して「詐欺」として罪に問われるものではありませんが、簡単に開業できるという甘い言葉や、すぐに稼げるといった謳い文句に誘われて始めてみても、損をするのは大金を支払った夢を持って始めようとした人たちばかりなのです。

このような、フランチャイズビジネスの残酷な現実を知ることこそ大事なことだと思います。

今回は、フランチャイズビジネスの側面について書きましたが、このフランチャイズによって稼いでいる人もいることから、すべてがフランチャイズビジネスが悪いということではなく、このようなことを知ることで、ビジネスを始める時はよく考えてから行動するようにしましょう。