
ある朝、モフ子は庭で、小さな芽を見つけました。
「まあ、こんなところに新しい命が……」
芽はまだちょこんと顔を出したばかりです。
モフ子はしゃがみこんで、その芽をじっと見つめました。

ある日、森の庭に人が入り、うっかり芽をふんでしまいました。
「わっ……!」
モフ子はかけよりました。
踏みつけられた芽は、それでも土の中でしっかり根を張り、立ちなおろうとしているように見えました。

森では雨の日がつづきます。
芽は冷たい雨に打たれ、葉が小さく折れそうに見えます。
「かわいそうに、大丈夫かな」
けれど雨があがると、透きとおる雫をまとい、昨日より芽は生き生きと力強く見えます。

夏の日ざしが強くふりそそぐ日は、暑すぎるために、せっかく伸びた芽が枯れてしまうのではないかと心配しましたが、けれど芽は、太陽に向かってグングンと葉を広げて伸びていきます。

風の強い日は、芽はゆらゆらと大きく揺れ、今にも折れそうです。
けれど、風がやむと、芽はすっと空に向かって立っています。
それを見て、モフ子は感じました。
大きくなるには、いろいろなことに耐え、そのことによって丈夫な木に成長することなんだということを。

季節がめぐり、小さな芽は木に成長して小さな花を咲かせます。
「きれい……!」 モフ子は手をたたき喜びました。

花はすぐ落ちて、ふと見ると、散った花のあとに、小さな実がふくらんでいるのにモフ子は気づきました。
綺麗な花が終わって、残念と思ったモフ子でしたが、それにより新しい命が生まれるということだったのです。

大きくなった木は、たくさんの実をつけました。
リスや小鳥たちがやってきて、その実をおいしそうに食べます。
まるで「ありがとう」と言っているみたいに、森はにぎやかになりました。

若木は大きく枝をゆらしながら、青空に向かってすっくと立っていました。
ふり返れば、芽がふまれた日も、雨に打たれた日も、花が散った日もありました。
けれど、どんな時も乗りこえてきたからこそ、今の木があるのです。
つらいことさえ、大きく育つための力になっていたのです。

モフ子は庭に立ち、木を見上げました。
「私も、この木のように、あせらず、今を大切に一生懸命に生きることにしよう」
そう心の奥でつぶやいたモフ子の顔は、希望の光にみちあふれ、きらきらと輝いていました。