
モフ子はいつも元気に、森のみんなに「おはよう!」と笑顔であいさつをします。
今日は、お気に入りの帽子をかぶって、どこかにお出かけです。

「モフ子ちゃん、その帽子、似合っているね」クマさんが言います。
他のリスさんや、キツネさんたちも同じように言いました。
「この帽子、とても気に入っている大事な帽子なの。だから、どこに行くにもかぶっていくの」

ある日、森でお祭りがひらかれることになりました。
森の神様にみんなが宝物や飾りを持ちより、感謝をささげるお祭りです。
森じゅうの動物たちが、色とりどりの宝物を手にして集まります。
モフ子は、何を持って行けばいいか困ってしまいました。

リスやキツネさんたちは、自分が持ち寄ったものがいちばん立派だと自慢します。
リスは森で集めた木の実を持って自慢げに笑っています。
キツネは、大きな祭壇を作ったんだと誇らしげに言います。
仲間たちは口々に、立派なお供えをすれば、森の神様は願いを叶えてくれると話しています。

「家で宝のような大事なものというと、この油と、いつもかぶっている帽子なんだけれど、神様に帽子を差し出すわけにはいかないし」
モフ子はテーブルの上にある小さな油ツボを見つめていました。
「油は大事な灯りだから、それを差し出せば夜になったら家の中が暗くなってしまう」
しかし、家でいちばん大事なものを森の神様に提供するのだからと、モフ子はこの油のツボを差し出すことに決めました。

モフ子は小さな器に火をつけて、祭壇の前を照らします。
しかし、動物の仲間たちは口々に、持ってきた油が少ないために、明かりが薄暗いことを笑います。
「これでは、森の神様は怒って、願いを叶えてくれないよ」

その時、神社の前の広場に強い風が吹き、祭壇などが飛ばされてしまいます。

「ああ、私の大事な帽子が」

風はすぐに収まったのですが、祭壇がぐちゃぐちゃになってしまいました。
「せっかく、お供物をしたのに」
キツネが、がっかりするように言いました。

そこに、モフ子の帽子をくわえた鳥が戻ってきました。
「モフ子ちゃん。帽子を見つけたよ」
「わぁー、私の帽子だ。トリさんありがとう」
その時に、動物たちはモフ子が供えた、灯りが消えていないのに気が付きました。

森の動物の仲間たちが、その消えない灯りを静かに見つめています。
「モフ子ちゃんの灯りは小さいけれど、森を照らしているね。」リスさんが言いました。
「神様へのお供えは、見せびらかすためでも、願いをかなえるためでもない。心をこめてささげるものなんだ」
キツネさんが、やっと気が付いたように言いました。
その言葉は、森じゅうの仲間たちの胸にしみわたりました。
モフ子の灯りを中心に、みんなの心があたたかくひとつになったのです。

大切な帽子も戻り、暗くなった室内で、モフ子の心は不思議と明るく照らされていました。
感謝の気持ちさえあれば、それでみんなが幸せになるの。
森の神様に小さな油を供えたモフ子の灯火は、願いよりも心をこめることの大切さを教えてくれました。
感謝の心は大きさではなく、心をこめた気持ちこそが、いちばん強く、やさしく、世界を照らすのです。