
森の中で、ヤマアラシのおじいさんは、寂しく一人で暮らしていました。
全身トゲだらけのおじいさんには、近づく動物はいません。

若い動物たちが川で遊んでいて、持ってきたごみを川に捨てるのを見ると、ヤマアラシのおじいさんは大きな声で叱ります。
若い動物たちは顔を見合わせると、「また始まった」 「あのおじいさん、怖いね」 「近づかないようにしよう」
動物たちはそう言うと、逃げるように離れていきました。
だからおじいさんは、いつも一人ぽっちです。

モフ子だけは、時々おじいさんのところに行きました。
「モフ子は、私のことが怖くないのか」
「どうして?」
「いつも怒ってばかりいるから、みんなから嫌われているのは知っている」

ヤマアラシのおじいさんが寂しそうに言うのを、モフ子は首を振って言いました。
「おじいさんは間違ったことを言っていないわ」
「でも、みんなからは厄介者と思われている」
モフ子は黙って聞いていました。
「ただ、この森が好きだから。みんなのことが心配だから。それだけなんだ…」
おじいさんの声は、とても小さくて、とても寂しいものに聞こえました。

その年の雨の多い季節のことでした。
何日も雨が続き、川の水がどんどん増えていきました。
やがて川が氾濫しそうになりました。
モフ子が川に見に行くと、途中の流れが止まっていたのです。
よく見ると、ごみが大量に詰まって水が流れなくなっていました。

動物たちは川に駆けつけると、 みんなで必死にごみを取り除きました。
やがて川の流れが元に戻り、いつもの静かな流れに変わったのです。

「おじいさん、ごめんなさい。ずっと言うことを聞かなくて、本当に申し訳なかったです」
狐が代表して謝ります。
「おじいさんの言っていたことが正しかったのに、言うことを聞かないですいませんでした」
リスも反省して謝りました。
「怖いと思っていたけど、本当は森のことを一番考えていてくれたんですね」
クマが言います。

ヤマアラシのおじいさんはしばらく黙って聞いていましたが、やがておじいさんも、ゆっくりと頭を下げました。
「わしも…申し訳なかった。良かれと思って怒鳴ってばかりいたが、それでは誰の心にも届かないことがわかった。相手のことを考えた伝え方があったはずだったと反省している」
みんなは驚いたように静まり返りました。

その日から、森や川はきれいになりました。
もう、ヤマアラシのおじいさんは怒鳴りません。
動物たちも、お爺さんの周りに集まるようになりました。
お互いが頭を下げたあの日から、森に温かい風が吹き始めたからです。