これまで、シニア世代が詐欺の被害者にならないための対策をお伝えしてきましたが、昨今、被害に遭うだけでなく、シニアがシニアを騙すという痛ましい事件が起きています。
騙す側も騙される側も高齢者という、この新しい形の詐欺は、なぜ行われてしまうのでしょうか。
「私は犯罪の加害者になんてならない」と思っていても、気づかないうちに詐欺の片棒を担がされてしまう危険な罠があるということを、ぜひ知っていただきたいのです。
今回は、シニアが知らず知らずのうちに巻き込まれてしまう「老々詐欺」の実態と、その背景について一緒に考えてみましょう。
目次
老々詐欺とは何か
老々詐欺とは、その名の通り「高齢者が関わる詐欺」のことです。
これまでの詐欺と大きく違うのは、被害者だけでなく、加害者側にも高齢者がいるという点です。
では、なぜごく普通のシニアが、詐欺グループに加担するようになってしまうのでしょうか。
今回はその背景についても考えてみることにします。
シニアが加害者になる入り口
詐欺グループは自分たちが警察に捕まらないよう、「受け子」と呼ばれる末端の実行役を常に探しています。
その手口の一つが、最近ニュースでもよく耳にする「闇バイト」です。
X(旧Twitter)などのSNSで「高額アルバイト」として募集をかけることで、闇バイトに誘ってくるにです。
中には「シニア歓迎!簡単な荷受けのお仕事」などと、ごく普通の求人を装っているものもあります。
年金暮らしの中で「少しでも生活の足しにしたい」「孫にお小遣いをあげて喜ばせたい」という、そんなささやかな願いを持つシニアが、こうした募集記事を見てうっかり応募してしまうと、二度と逃げ出すことのできない犯罪に巻き込まれてしまということになります。
シニアを「加害者」に仕立て上げる手口
この「老々詐欺」を考えるうえで絶対に忘れてはならない前提があります。
それは、末端で加害者となってしまったシニアもまた、詐欺グループに狙われた「被害者」であるということです。
なぜ高齢者が狙われるかというと、そこには、新しいネット社会の仕組みに不慣れであるという弱さがあります。
加害者であるシニアは、「まじめに働いて少しでも収入を得たい」という純粋な気持ちから発しています。
真面目でおとなしい人ほど、途中で「おかしい」と気づいたとしても、「家族に迷惑をかけられない」と思い詰め、逃げ出すことができなくなってしまうのです。
詐欺グループは、安全な場所に隠れたまま、こうしたシニアの善良な心を利用して、使い捨ての駒ということで高齢者に近づいてきます。
加害者でありながら、彼らもまた人生を狂わされた被害者であるという、これこそが、老々詐欺の最も恐ろしい現実なのです。
年金生活者Aさんのケース
広告を見て、これくらいの仕事なら自分にもできるだろうと考えて応募してしまったAさんは、普通の年金生活者で、贅沢をしなければ細々とながらも生活ができていました。
しかし、「たまには旅行にも行きたい」と考えて、少しだけ収入を得られるならと簡単なアルバイトを探していたのです。
そんな時、X(旧Twitter)で「簡単な荷物の運搬」という募集記事を目にしたことから始まります。
「これくらいなら自分にもできそうだ」と考えたAさんは、さっそく連絡先に問い合わせてみることにしました。
「受け子」への入り口
電話の相手は穏やかで優しく仕事の内容を教えてくれると同時に、詳しくはLINEに登録をしてほしいいと言ってきます。
そして、LINEの無料通話で説明されたのは、「指定された場所で荷物を受け取り、それを別の人物に渡すだけ」というものでした。
誰にでもできる簡単な内容なのに、提示された時給はなんと3,000円ということでした。
Aさんは「こんな高額収入が得られるなら」と、すっかり乗り気になって応募を決意します。
すると相手は、「登録のために、運転免許証かマイナンバーカードの写真をLINEで送ってください」と指示してきました。
冷静になれば不審に思う場面ですが、またとないチャンスだと思い込んでいたAさんは、言われるがまま運転免許証の写真を撮って送ってしまったのです。
絶対に忘れてはいけない注意点
ここで気をつけなければならないことは、どこの誰れだか分からない相手に、簡単に身分証明書など送ってはいけないということです。
個人情報が悪用されるだけでなく、脅されて逃げ出せなくなり、犯罪に巻き込まれる可能性があるからです。
このような場合は、相手の会社などをしっかり確認することや、そもそも簡単な仕事で、不釣り合いな高額な賃金を払うということは、何か裏があるということを疑わなければならないということです。
途中で気がついても遅い
いよいよ最初の仕事の日。
Aさんに指示された内容は、スーツを着て指定の住所へ行き、『会社の者ですが、荷物を受け取りに来ました』と言って封筒を受け取ってくるというものでした。
その話を聞いて、なんだか危ない仕事ではと気がついたAさんは、都合が悪くなったので、仕事はできないと断りの電話を入れました。
すると、それまで優しく対応していた相手の男は、急に豹変したように語気を荒げると、Aさんに対して、「今更断るというなら、違約金として50万円、即刻支払え」と脅かしてきたのです。
怖くなったAさんでしたが、そのようなお金はないと言うと、「金がないなら、今からお前の家に若い者を向かわせるからな!」と、大きな声でまくし立てます。
運命の分かれ道
恐怖に負けるか勇気を持つか、すでに運転免許証の写真を送ってしまい、住所も知られていることから、普通ならここで恐怖で頭が真っ白になり、言われるがままアルバイトを続けてしまうかもしれません。
ここが、人生を左右する運命の分かれ道です。
- 怖くなって指示に従い、詐欺グループの仲間(加害者)になる
- 勇気を持ってきっぱりと断り、警察に駆け込む
もしAさんが脅しに屈し、一度でも荷物(現金)を受け取ってしまったら最後、「お前も立派な共犯者だぞ。家族にバラされたくなければ言うことを聞け」と一生ゆすられ続け、二度と組織から抜け出せなくなってしまいます。
しかし、Aさんは勇気を持って後者を選びました。
「それなら警察に行きます。この通話も録音しているので、これを持って相談に行きます」ときっぱりと言い切ったのです。
すると相手は、一方的に電話を切ってしまいました。
詐欺師にとっても一番恐ろしいのは警察に捕まることです。
これ以上関わるとリスクが高いと判断したのか、詐欺師の身元もわかっていないことから手を引いたのだと思います。
最初は「ちょっとした隙間バイト」のつもりでも、一歩間違えればとんでもない事件に巻き込まれ、犯罪者に転落してしまうところでした。
これが闇バイトの恐ろしい実態なのです。
お金を奪われる人も、加担させられる人も、同じ被害者
今回見てきたように、「老々詐欺」という新しい犯罪の形において、本当の悪人は安全な場所に隠れています。
お金を騙し取られる高齢者も、そして「簡単なアルバイト」という言葉に騙されて加害者に仕立て上げられたシニアも、実はどちらも詐欺グループに利用された被害者なのです。
「自分は絶対に騙されない」「犯罪なんて犯さない」という思い込みは、時に危険な罠にはまりやすくなります。
詐欺師たちは、私たちが持つ「まじめさ」や「少しでも自立したい」という純粋な気持ちを、冷酷に利用してくるからです。
もし、少しでも「うまい話」や「不審な仕事」に出会ったら、絶対に一人で抱え込まず、身分証明書を送る前に冷静になって考えてみて下さい。
そして、少しでも怪しいと思ったなら、勇気を出して誰かに相談してください。
もし周りに相談できる人がいない場合は、一人で悩まず、すぐに警察の相談窓口である「#9110」に電話してください。
専門の相談員が、あなたが犯罪に巻き込まれないよう適切なアドバイスをしてくれます。
私たちシニア世代が、互いに声を掛け合い、こうした見えない罠から身を守っていくことが何よりも大切なのです。
詐欺や闇バイトを見破る危険な4つのサイン
自分を守るために、アルバイトや副業の募集で以下の「サイン」が一つでもあったら、絶対に手を出さないようにしてください。
サイン1:「簡単なのに高額」な報酬
「荷物を受け取るだけ」「話を聞くだけ」で数千円〜数万円がもらえるなど、仕事内容と報酬が釣り合っていないものは100%裏があります。
サイン2:LINEなどの「SNS」だけでやり取りしようとする
きちんとした会社名や固定電話の番号を明かさず、「詳細はLINEで」と個人の連絡先に誘導してくるのは詐欺師の常套手段です。
サイン3:「身分証明書の写真」を急かしてくる
採用面接もしていない段階で、「登録に必要だから」と運転免許証やマイナンバーカードの画像をスマホで送らせようとするのは、あなたを脅すための人質とするような行為です。
このような話があった時点で怪しいと断るようにしましょう。
サイン4:仕事の目的が「不自然」
「他人の家に行って封筒を受け取る」「自分の口座を貸す」など、普通の仕事の内容では考えあられない行為は、詐欺師などが利用する受け子や出し子の仕事だと思って下さい。
世の中には、怪しい罠が張り巡らされていることから、以上のような確認方法とともに、しっかりした知識を持つことが大事なことです。
現代はシニアにとっても、ウカウカしていられない時代になってきています。