モフ子は、遠くに引っ越して行った大切な友だちのことを思い出していました。
手紙を出しても返事がこないことから、どうしているのだろうかと心配になって、勇気を出して会いに行くことにしました。
これは、思いやりとつながりのあたたかさを描いた、小さな再会の物語です。

モフ子は、粉まみれになりながら、お母さんから教わったやり方で、クッキーをひとつひとつ焼いています。
なぜなら、遠くの町に引っ越していった友だちに、手作りのクッキーを届けるためです。

モフ子とリスは、幼稚園のころからの仲よしでした。
毎日いっしょにあそび、笑いあって、なんでも話せる大切な友だちです。
家も近くにあり、「私たちいつまでも友達でいようね」と、いってくれていました。
けれど、小学校にあがるころ、リスは家族といっしょに、遠くの町へ引っ越していったのです。

それからというもの、思い出すのはリスのことばかりです。
「リスちゃんどうしているのだろう」
モフ子にとって、幼馴染のリスのことを考えると、胸の奥が少しあたたかく、少し切なくなるのです。

そこで、モフ子は一大決心をして、クッキーを持ってリスに会いに行くことにしました。
お母さんにそう告げると、「気をつけてね」とやさしく背中を押してくれたのです。

森の小道を歩くモフ子に、小鳥が「どこへいくの?」と声をかけます。
モフ子は、「遠くに引っ越した友だちに会いにいくの!」 と楽しそうです。
小鳥は羽を広げて「気をつけてね」と見送りました。

森を抜けると、丘の上に小さな家が見えてきました。
それが、リスの新しいおうちです。
モフ子はトントンとドアをたたきました。
「モフ子ちゃん!? 来てくれたの!?」
ドアが開いてリスが出てきた瞬間、うれしそうにギュッと抱き合いました。

リスは、モフ子が持ってきたクッキーをひとくち食べると、「このクッキー、おいしいね!」と、うれしそうに言います。
モフ子はにっこり笑って答えました。
「よかった。がんばって作ったの!」
ふたりはクッキーを分け合いながら、昔のように笑い合いました。

しばらく話していると、ふたりのあいだに、静かな時間が流れます。
モフ子は、少しうつむいて小さな声で言いました。
「……じつはね。お手紙を何通も出したんだよ。でも、ぜんぜん返事がこなくて……」
リスはびっくりして、目をまるくしました。
「えっ? 本当なの? 私、知らなかったわ」

「わたし、さびしかったの。なんだか忘れられたような気がして……」
モフ子の言葉に、リスは少しおどろいた顔をしました。
「そうだったのね。ごめんね。たぶん、引っ越したばかりで住所が変わってて、郵便屋さんも困っていたんだと思うわ」

リスの言葉に、モフ子は、安心したようにうなずきました。
「そうだったんだ。少しさみしかったけど、リスちゃんのこと、ずっと信じてた」
リスは、やさしくほほえんで言いました。
「私も、モフ子ちゃんのこといつも思っていたの。でも、新しい町になかなかなじめなくて、手紙を書く元気がなかったの」
モフ子とリスは、心のわだかまりが解けたように手を取り合ってにっこり笑いました。

やがて、別れの時間がやってきました。
リスは、少しさびしそうに笑いました。
「でも、今こうして会えて、本当にうれしかった」
モフ子は、そっと手を握りながら言いました。
「手紙が届かなくても、心はちゃんと届いていたんだね」
リスは大きくうなずいて答えました。
「もう会えないと思ってたけど、これからは必ず手紙を出すし、また会いにきてね」

帰り道、森の向こうに、夕日がゆっくりと沈んでいきます。
モフ子は足を止めて、そっと空を見上げました。
空はオレンジ色から、少しずつ夜の色に変わっていきます。
生きるって、誰かを思い、誰かに思われながら過ごしていくことかもしれない。
それぞれが繋がりながら、生きることが幸せなことなんだ。
モフ子は、心から幸せをかみしめることができました。
やさしい風に包まれながら、森の道を歩いて帰っていくモフ子でした。
あとがき
だれかを思い、だれかに思われること。
それは、何気ない日々の中でいちばん大切なことかもしれません。
生きるということは、自分ひとりの力だけでは歩いていけないのです。
モフ子とリスのように、つながりを信じて生きることこそ、私たちの毎日をやさしさが包み込んでくれるのです。
勇気を出して行動してみることが、かけがいのない喜びにつながっていきます。
だから、やさしい言葉とやさしい思いを胸に、今日という一日を、大切に生きなければならないのです。
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